第13話「新しい気持ち」


隼は二人に全てのことを話した。


隼に彼女がいることさえも知らなかった祐介と浩司は急な事実に言葉を失った。


「でも一人で行ってどうするん?」


浩司が何かを問いかけねばならないと小さな声で隼にたずねた。


「家にいたくないってのもほんまと言えばほんまやし、もう大学に行く気もないから早く働きたいねん。しばらく一人にもなりたいし。」


「でも大学はいかなあかんやん。高校生が急に行って住み込みで働ける場所なんてないって。」


浩司がそう言い終わったとほぼ同時に祐介が話し出した。


「そう決めたんならいいやん。行って来いよ。ほんで無理やったら帰って来いよ。」


一見その言葉は冷たいもののように聞こえた。


彼女をなくしてしまった友達に対しては慰めながら、一緒にがんばろう、そう言うことのほうがいいんじゃないだろうか。


祐介もそう感じていた。


しかしそれ以上言葉を続けることはなかった。


祐介は隼のことを信頼していたから。


隼が決めたのなら、頑張ってほしい、出来るかもしれない。


そう思った。


隼のことを理解していたから、止めても無駄だという想いもあった。


浩司も何も言わずに納得し、その言葉の後三人はその話をしなかった。


そして次の日二人がこっそり忍ばせたお金を持って、隼は東京へ一人で旅立っていった。


 

東京に着いた隼はすぐに住み込みで働かせてもらえる場所を探し始めた。


何軒回っただろう。


探せど探せど対応は冷たかった。


隼自身それが当り前なのだろうとはわかっていた。


それにしても冷たい対応はまだ九月だった街の風さえをも冷たく感じさせた。


一日目は何もすることさえできないまま終わった。


隼はとりあえずコンビニで買ったおにぎりを公園で食べていた。


ベンチに腰掛けながら、昼に買ったペットボトルをリュックから取り出そうとして隼は中に見慣れない袋が入っていることに気づいた。


その袋を取り出して確認すると、中には千円札が八枚入っていた。


隼はそれがすぐに浩司と祐介が入れたものだとわかった。


八千円。


少なく中途半端な金額だった。


一人で東京に出てきた隼にとって、その程度の金額がしてくれる限界は容易に判断できた。


しかし自分たちにとっては大きい額だということも分かっていた。


「こんなん入れてどうするつもりやねんな…。」


そう思いながら、隼の目からはまた涙が流れていた。


自分が取っている行動は本当に正しいことなのだろうか。


そんな考えが頭をほんの一瞬よぎったが、その時の隼の心にそんな事実を認められるほどの容量は残っていなかった。


 

隼は次の日も朝からたくさんの場所を回った。


小さな定食屋さんからラーメン屋、金物屋さんなどまでたずねては雇ってもらえないかどうか頼んだ。


しかしやみくもに大阪からやってきた高校生の面倒を見てくれるような場所などなかった。


諦めかけていた隼だったがその状態を打破するためには見つけるまで探すという選択肢以外は持ち合わせていなかった。


そしてついにどうすればいいのかわからなくなり始めていた時、一軒のラーメン屋の店主が親身になって話を聞いてくれた。


隼は偽らず全てを話した。


追い込まれていた状況は全てを話さざるを得なくさせていた。


「大阪から東京に出てきてまで仕事を探している気持はよくわかった。でもうちを含めて、高校生を住み込みで働かせてくれる場所なんてそうそうないよ。」


そんなこと隼にはもうわかり始めていたことだった。


それでも見つけるしかないんだと。


しかし店主は続けた。


「それに彼女はそんなこと君にしてほしいのかな?そんなこと俺が言うことじゃないかもしれないけれど、知らないからこそそんな考えもあるんだと聞いてくれよ。」


店主はさらに続けた。


「ただそれだけ強い気持ちを持てるのなら頑張って乗り切って卒業してからまたおいで。


その時は必ず雇ってやる。何事も途中で辞めてしまうのは良くないことだよ。何よりもったいない。」


間違えた行動を取っているのだと自分でも気付き始めていた。


でもそれをどうすることもできなくなっていた。


そんな隼にとってその言葉たちは真紀からの言葉のようだった。



お互いの連絡先だけを交換し、隼はその場を去った。


心が折れてしまっていた隼は大阪行の電車に乗り込んでいた。


真紀がこんな姿を見たら何ていうのだろうか。


少なくともそこにいい言葉は浮かばなかった。


そう考えたとき隼は自分がいかに浅はかなことをしているのだと痛感した。


誰の為でもなくただ自分の感情を紛らわすためだけの行動だった。



そんな感情の中、隼は自宅に帰ってきた。


家に着いた隼に対し、今まであれほど口うるさかった隼の両親はほとんど何も言わなかった。


一応東京に行って一人で働くのだという内容の置き手紙だけを残していたが、必ず怒られるのだと思っていた。


電話もメールも返していなかった。


「勝手なことしたらあかんで。」


それなのに、ただ一言だけだった。


「ごめん。」


隼もそう一言だけ返した。


そのあとはいつも通り夕食を食べ、隼は自分の部屋に入った。


厳しかった両親のその態度は隼に安心も与えたが、今自分の置かれている状況も再認識させた。


「学校どうしよ…。祐介と浩司はなんていうやろか。」


隼が祐介と浩司の自分への目を気にするのは初めてのことだった。


それは隼にとって新しい気持ちだった。