第4話「何か引っかかるもの」

 

毎日同じ映像が流れる世界に迷い込んでしまったのではないかと錯覚させられるような、退屈な高校での生活が続いていた。


しかしそれを目覚めさせるかのように夏休みが遮断した。


夏休みに入ってすぐ隼は北海道に行く予定を立てていた。


隼の両親は熱心なボランティア団体に入っており、その団体内での家族同士の懇親会が開かれるからだ。


「もう用意は出来てるの?早く行くよ。」


「わかってるよ、行くよ。」


当時の隼は特に反抗期もなかったが年齢を重ねるにつれ、こういう場所に行くことを拒み始めていた。


ボランティアは元より懇親会などに興味のない隼にとって、その行事は特に面倒くさいものだった。

 

新千歳空港に着いてすぐに他の家族と合流した。


その中には同年代だと思われる顔も数人確認できた。


隼はそれらの人たちを自分に照らして合わせて、気の毒な想いで見ていた。


親同士の簡単なあいさつが終わり、一行は旅館へ向かった。

 

 

旅館に着いて、家族ごとにそれぞれ部屋に入った。

 

良い旅館だった。


窓からは海が見えていて部屋も広い。


浴場には景色が一望できる露天風呂もあるそうだ。


けれど隼はそれらのものを満喫できるほどの感情を持ち合わせていなかった。


夕食は宴会場で開かれるらしく、隼と両親はそこへ向かった。


「他の子らと仲良くしなさいよ。」


「わかってるよ。」


隼の両親は昔から礼儀や人との繋がりに対して厳しく言って聞かせていた。

 

繊細な年齢に差し掛かっていた隼ではあったが、厳しさゆえに両親に逆らうことを考えたことなどなかった。

 

その夕食は豪華なものだった。


前菜に始まり、蟹があり、刺身があり、ステーキまであった。


中には高校生の隼の口には合わないものもあったが満足のできる内容だった。

 

夕食が済んだあとはロビーで親たちのボランティアに対しての懇親会が始まった。


その輪からはじき出されるような形で子供たちも自分たちだけで集まらねばならない空気を感じ始めていた。


「隼、みんなで集まって向こうで話でもしてきなさい。」


隼の父親は千円札を取り出し、みんなにジュースを買って話でもして来いと伝えた。


みんなの前でそう言われた隼はしぶしぶ自動販売機で全員分のジュースを買いにいった。

 

「ありがとう。」


そのお礼の言葉には確実に感謝以外に気の毒そうな感情が入っていることが読み取れた。


子どもたちは使命感にかられるように円卓を囲み話し始めた。


「まずは自己紹介でもしようか。僕は浦井康人です。埼玉に住んでいます。」


それにみんなが続き、今考えれば行きたくもない合コンに参加したような感覚だった。


隼もみんなの言葉を借りながら、当たり障りのない自己紹介を済ませた。


「はい!それじゃあ次は私ね。村上真紀です!好きなものは甘いものです。岐阜に住んでいますよろしくね。」


隼の隣に座っていた女の子が大きな声で自己紹介をした。


その自己紹介を聞いて、隼は心の中の面倒くささが一層大きなものになるのを感じた。


その後その真紀という少女はみんなに自分のことや家族のことをたくさん話していた。


そこにいた七人全員が高校生で真紀は隼と同じ高校一年生だった。


初対面の人間にたくさんのことを話す真紀を隼は馬鹿にしていた。


「あー早く帰りたい。」

 

 

そう思い続ける時間は長かったが、そんな時間にもちゃんと終わりはやってくる。


次の日の帰りの飛行機の中で何故か隼は昨夜の真紀のことを考えていた。


自分とは相容れない人なんだと考えながらもどうしてか浮かぶのは真紀のことだった。


自分をさらけ出していた姿を馬鹿にしながらも最も隼の心に残っていたのは、そんな話をしながらすごく楽しそうな顔をしていた真紀の姿だった。